P3虹 舞い落ちる火種 [ShortStory.]




 それは罪。

 それは罰。

 生きとし生ける者が生まれながらに背負っている原罪(Original Sin)。アダムとイヴが最初に犯した罪。

 誰も抗う事も、決して償う事の出来ない人間が背負うには重すぎる罪。

 それを――。

 彼は――。

 背負わなくてはならなかった。



 羽を休めた11の鳥はそれぞれの道を歩むはずだった。

 彼らは今再び――。



 閉ざされた鳥籠の中で飛ぼうとしていた――。




 ~予告編第一話:舞い堕ちる火種~



「……あの戦いから」

「へっ?」

「あの戦いからもう二ヶ月か……」

 あの時と同じように特上寿司を頬張る順平をよそに美鶴は一つだけ呟く。この寮の最後の日である3月31日、記念という事もあり美鶴が特上寿司を頼んだ事で順平やコロマルといった面々がいたく喜んでいたのは言うまでもない。

「私達は日常を得る事が出来ました。それは戦闘兵器である姉さんや私の存在意義に反するはずですが、“彼”は言ってくれましたよね」

「そう、ですよね…“あの人”は『いてもいいんだよ』、そう言ってくれました。僕が寮から飛び出して帰ってきた時も、そして大晦日の時も」

 そうだよね、とメティスの瞳には懐かしさと悲しみ、そしてほのかに残るけど自分では説明出来ないもどかしさの様な感情が浮かび上がる。

「そういえばメティス、アイギスは?」

「姉さんなら今は部屋で休んでいます。やっぱり…美鶴さんや真田さんの卒業式の後からちょっと様子が変でしたし……」

 その言葉に対しても風花は頷くしかない。三年生の卒業後、アイギスは変わった。

 元から変わっているとも言えるし、彼女はメティスと同様――いや、それ以上に異端の存在である以上、卒業式の事は割り切りたくないものだが仕方ないと言えよう。

 だけど、それを簡単に割り切れるほどこの場にいた順平、美鶴、天田、風花、メティス、コロマルは大人ではない。最後のは心中を察する事は出来ないが。

 その他のメンバーは現在この場にはいない。彼らにとってあの戦いは忘れる事が出来なくても忘れられないと分かってながら、今はその事に触れる事を拒絶している。理由は数あれどそう簡単に忘れる事など出来ないと理解していながら足掻き続けるしかなかった。

 人間の記憶とは酷く不安定なものだ。ふとした拍子に記憶の奥底に沈む事もあれば、逆にいとも容易く思い出す事も多々ある。忘れる内容が良いものか、それとも忘れてはならないかも関係無しに。

「だけどそろそろ日付が変わっちまうか、何かもう少し食べたかったけどな」

「伊織、あれだけ寿司を食べておいてそれは無いだろ」

「出来れば全員揃って食べたかったですよね」

 風花の言葉に全員が気づかれない程度に纏っている空気を変質させる。その事に、他の誰よりも知る事が出来る風花は失言をした、そう思った。

 ほんの数分だけ言葉は途切れる。決して永遠ではないその時間は極めて短く、限りなく長く感じられ、その空気に耐えかねた順平が口を出す。

 こういう時に自分が三枚目キャラである事を半ば自覚している順平は頼りになる。そう思いながら後数分で弥生の終わりを告げるべく、時は無慈悲に重ねられていた。



 ――夢を見ていた。二度と届かぬ所に行った誰かに手を伸ばそうとし、そして届かぬままその誰かが小さくなる所を。


   待 っ て !

 その言葉は届かない。

   置 い て い か な い で !

 後姿で誰か分からない、だけど月光館学園高等部の制服を着ている誰かが彼女を――アイギスを無情にも置いて歩み続けている。

   独 り に し な い で !

 その言葉は――。

 悲痛を超えて――。

   ま た 置 い て い く の ?

 人ではない彼女から湧き上がる何かがそこにはあった。

 その感情は――。



「アイギス、起きて!」

 自分の中にあるよく分からない感情を自覚しようと思った矢先、アイギスはそれが何であるかを理解する事を忘れさせるような声でスリープモードから解除した。

 身体構造に特に異常無し、胸のパピヨンハートに多少の揺らぎを感じるが、それもすぐに戻ると顔を上げる。

「風花さん、いったい何が……?」

「いいから来て! そ、その前にメティスの斧を……お、重い……お願い持って……」

 矢継早とはこの事を言うのだろう。アイギスは状況を理解するよりも先に妹専用の武装を片手に、もう片方の手は風花に引っ張られて一階へと足を運んだ。



 時は遡る。幾千光年の彼方へと。

 “闇在れ”と賢者は云った。なれば光在れと愚者は言うのだろうか?

 愚者。そう、愚者だ。愚か者が希望を述べれば聡明な者はそれを否定、拒絶する。

 果たしてどちらが愚かなのだろうか? 抗う事を忘れ現実を見た者? それとも抗う事しか知らない、言ってしまえば血気盛んな若者のような存在を愚かと言うのだろうか?

 その“賢い闇”に溶けてしまいそうなほど黒く、闇に反射しているのか、それとも元からなのか分からないほど黒い色をした瞳が虚空を見つめていた。

 何故自分がここにいるのか、それを知る術は無い。否、知りたくない。

 あるのは自分自身と何故か持っている拳銃の形をしたそれ。理由を考える事などあまりにも長い時間を使ったので放棄する事にした。

 それなのに――。

 そこに見えるは一筋の“愚かな光”。闇の中に小さくても映える闇。ともすれば潰えてしまうほど微かな灯火。それを見つけた。

 だから少年は助けを請うように手を伸ばした。まるで誘蛾灯に群れる羽虫のように。

「――ああ、行こう。我がペルソナよ」

 一発だけ、音が響くかも分からない虚空の中に銃声だけが響いた。





 理解が、出来ない。

 この巌戸台分寮においてドロボウ等と言う姑息な連中が押し入ろうとあまり脅威ではないはず。にも関わらず風花はメティスの斧まで持ってきてくれと、緊急事態を告げている。

 その状況に機械の体であり、論理的な思考回路をもってしても理解が出来ない。

 では、機械と人間の違いは何かと瞬間的に考えてみる。アイギスやメティスと今横にいる風花達人間との違いを。

 それは論理か感情か。機械にロジックで出来ている私達と感情というファジーなものによって最適な行動を取る事が出来ない人間。

 例えそれがパピヨンハートというブラックボックスを使っていても、根源的なものは機械と言える。

「風花さん、何が起きたんですか?」

 聞いてはならなかった雰囲気だったかも知れない。順平曰く空気詠み人知らずなのかもしれない。だけどここで聞かなくてはならないと、そう感じてしまう。

 何故か、それは単純な結論。戦いにおいて状況を把握出来ない事は決定的な不利が生じる。

「わ、分からない!」

「分からない?」

「誰か分からないけど、けど突然現れて!」

 いつもであれば冷静とは言わずとも、ペルソナの能力故に状況分析や判断は活動部の中で随一の風花ですら理解が出来ない。

 何故――。その答えは至極当然だ。尋常ではない何かがこの寮に起きている、それだけの事だった。

 その尋常ではない何か、それを確かめるにはこの目で見るしかない。

 本来――製作された直後のアイギスであれば絶対にここで風花を諌めるなり落ち着かせるなどをして状況を把握してから行くはずだった。

 だけど――。

「……分かりました、行きましょう!」

 最早彼女は人間でも機械でもない、ある意味最もファジーな存在へと成り果て始めていた。十年後に作られた妹と同じように、いや、更に不安定な存在となって――。




「天田!?」

「おい天田! しっかりしろ!」

 アイギスは目の前の光景にただ唖然とするしかなかった。

 誰だ、この少年は? 何故この時間、弥生が過ぎた直後である4月1日の深夜に寮に押し入っている少年は?

 その考えを否定、後に修正する。ならば風花が慌てて助けを求めに来る必要が無い。1階にいた順平ないしは美鶴で大抵は事足りるだろうし、それでも抵抗する輩がいればメティスの実力行使でどうにでもなるはずだ。

「誰ですか、貴方は……?」

 闇がそこにいた。ただ黒いジーパンにシャツとロングコート、そして長くも無い至って普通ながら、どことなく妙な雰囲気を漂わせる暗黒色の髪の少年がいた。

 年は自分達――順平達と同じ位だろうか? 身長から判断するに同年代、だけど眼がただの少年ではない事を仄めかす。最年少の天田よりは幾分か年上であるが、順平よりは多少年下、一学年くらい違うであろう。

 そこにあったのは虚空。ただ目の前の状況を判断、把握し、まるで自分の使命があるからそれに沿って動いているだけに過ぎないような虚無的な何かがあった。

 多分服装とかちゃんとして町を歩き、ナンパをすればすぐに引っかかるような女がいてもおかしくないだろうと、この緊迫した瞬間の中でふと思ってしまう。

 その考えはすぐに捨てなくては。そう思ったのは少年の足元には美鶴と順平の叫びに対して返事が無い天田がいたから。

 可能性としては意識の喪失、あるいは考えたくは無いが死――その二つのどちらかでしかない。

 瞬時に思考回路を切り替え状況を把握しなくては――アイギスの心がそう判断した時、その少年は既に行動に移す。

 マズい――! そう思った瞬間には既にアイギスも行動を移さざるを得なかった。

「メティス!」

「分かった姉さん!」

 天田を乗り越えこちらに走ってくる少年をよそに即座に自分の手持ちの斧を妹へと投げ渡す。その瞬間メティスは己の内なる力――ペルソナを襲い掛かる少年へと発動させた。

「来て、プシュケイ――デッドエンド!」

「……!?」

 仮面を開き己が精神を集中させる。そこにはいつもの甘えん坊のメティスの姿は無く、対シャドウ用戦術兵器としての顔があった。

 冷静に、だけど着実にこの少年は敵だと認識した瞬間、プシュケイの薙ぎ払いと共にメティスは合わせるように少年の細身の肉体に大斧を振り下ろす。

「駄目、メティス! 彼を倒しちゃ駄目!」

 既に回避行動を取っていたとは言え、風花は加減を知らないメティスに対して制していた。何故かは分からない、けれど彼を殺しては駄目だ。風花の心の違和感は理解するよりも早く叫んでいた。

 何故この少年を? 確かに目の前で人が死ぬのはもう二度と見たくない。



 それだけの理由で?



 背後へ跳躍をし、回避し終えた少年は自分に対して絶対的な自信があるのだろう、得物を持たずにただ佇んでいる。

 いや、もしかしたら得物を持たない真田先輩のようなスタイルなのかもしれない。どちらにせよそれは不明だが決して油断は出来ない相手である、それは二人の少女は今までの戦いの経験から肌で感じ取れた。

「――順平さん、美鶴さん、早く天田さんの手当てを。コロマルさんは早く風花さんを安全な所へ」

「ああ、分かった」

「ワンッ!」

 少なくとも対峙している間であれば得物や召喚機を持ってない他のメンバーに襲い掛かるほど隙を見せる行動はしない。

 数cmでも近寄ればその距離だけ離される。その挙動には少年もいつ攻撃を仕掛けるべきかとタイミングを計っているだけのように思えた。

「……うっ!」

「アイギス、メティス。天田は無事だ。今から私達も――」

「駄目です!」

 何故か、その答えを聞くほど美鶴も愚かではない。だけど仲間である以上手をこまねいて見ているだけなのも心苦しい。

 信頼していないわけではない、召喚機も武器も無ければ何も出来ない自分の無力さを呪うしかないこの現状が辛かった。その事は隣で天田を治療している順平も、そして少年に向かって吠えようとしているだけしか出来ないコロマルも同じ事だった。

「メティス、彼はどうやって侵入したの?」

「あそこ……」

 メティスが少年を見据えながら指した先にはエントランスのテーブルがあったはずの場所だ。だがそこには今や大きな穴が開いている。

 違う、穴ではない。



 そこにあるのは階段。寮の誰もがいる場所に、そして誰もが知らなかったもの。これから皆を誘う神曲となっている事を――。







「もう一度尋ねます、貴方は誰ですか?」

 アイギスの簡易的な修理も完了し、全員が集まった事でやっと一段落が着いた。その間も後ろ手に椅子に縛られていた少年を囲むように佇む。

 さすがに人間である以上生理的現象を耐え切る事など出来ないので、その時は順平天田明彦といった男集によってトイレへ連行されていたのだが。

「……俺は、虚空からの使者だ」

「虚空からの使者だと? バカバカしい、お前の名前を言え」

「名前、だと? おかしな事を言うな、この男は」

 明彦の質問に対して、至極全うな事であるのにそれをおかしな事と一笑するこの少年は未だに冷静だった。全員から囲まれて後ろ手に縛られようとその絶対的な自信とも言える物が彼にはあった。

「名前とはそれを呼ぶ人間が二人以上いて始めて識別するためのものだ」

「なん、だと……? そのフレーズ、どこかで……」

 既視感という言葉がある。実際は一度も体験した事が無いのに、既にどこかで体験した事のように感じるというもの。そしてこのメンバーの誰もが知ってなくてはならなかったもの。

 いや、そもそも知らないからこそ、体験した事が無いからこそ既視感なのであって、肯定の既視感など存在しない。あくまでも無かった筈なのに有ったように感じてしまう、そういう時に使われる言葉なのだから。

 そう、あくまでも彼らは“この言葉を聞いた事があると思い込んでいるだけ”に過ぎなかった。

「だけどさぁ、名前が無いってのもどうよ?」

「そうですよね、何と呼べばいいのか分からないですし」

「ならば便宜的にでも名前を付けさせてもらうぞ」

 反論は許されなかった。どちらにせよこの寮から出る事も出来ないし、この少年とは否が応でもしばらくの間行動を共にする以上、名前が無い人という曖昧な人物が相手ではこれからの生活がやりにくくなるから。

 少年はしばし考えた末、別に有ろうと無かろうと問題は無いという結論に至り、とは言えども名前なんて付けた事が無いからどうすればいいのか分からない、そんな諦めたような困ったような表情を浮かべる。

 当然だ、何せ今まで“たった一つの例外を除いて”一度も名前などというものを付けた事が無いから。

「名前なんて適当でいいのだが…」

「じゃあ何故お前のペルソナに名前が付いている? ちゃんと理由があるはずだろう?」

「確かに…理由はある事はあるが、お前達には関係の無い事だ」

 不貞腐れているが、ちゃんと美鶴の話を聞く辺り聞き分けはいいのだろう。縛られている事を除けば。

「じゃあ俺達で名前を付けちまおうぜ」

 本人は納得しているが気乗りしない様子に順平が勇んでそんな提案を始める。考えてみれば至極当然の事だ、今まで無いに等しい事に挑戦させる以上、下手にすっ飛んだ名前を自称されるよりは誰かが適当な名前を決める事が一番無難かもしれないと判断した。

「名前を付けるって…例えば順平、お前ならどんな名前を付けるんだ?」

 明彦にそう指摘されて真っ先に出てきたものが。

「あーっと、じゃあ…」

 よりにもよって。

「名無しの権兵衛」

「却下」

 間髪入れずに美鶴から反論意見を出された。しかしそこはギャグだと言って即効で別の提案を出す順平。この男、空気の詠み方は相変わらず断崖絶壁すれすれのラインである。

「じゃあ真田さんや天田も考えてみろよ、後コロマルも」

「ワン?」

「コロマルさんが名付け親ですか……それは素敵な事ですね」

 幸いにも通訳がいる。だから出来る所業なのだが、そんな事を知らない少年は『頭に蛆でも涌いているのではないか?』と思わずにはいられなかったが、ここで何かを言えば間違いなく縛られている自分が不利。だから何も言わない優しさを持ってあげた。

 その間もコロマルも何かを考えている感じに頭をゆらゆらと動かす。そして唐突に吠えたと思うと、それを聞いたメティスによって早速少年の名前の提案が出てきた。

「格好いい太郎、だそうです」

「悪くは無いな」

 虐めですかそうですか、美鶴の感嘆の表情に対して少年の諦観しきった表情を浮かべていても誰一人として気づく事は無い。

「ですけどそれだと戦闘の指示の際に支障が出そうなんですけど…」

 風花の意見はもっともなのだが、もっと根源的な何かで否定をしてくれないか、そういう表情をしても誰からも指摘されない。

 誰でもいいから助けてくれ。そう、生命の危機的な意味ではない方で心から少年は願った。





「破砕せよ、ガン・スレイヴ!」

「よっしゃ! 後は任せろ! ブレイブザッパー!」

 彼のペルソナからの援護射撃によって瀕死へと追いやられたシャドウを順平のトリスメギストスが追い討ちをかけるように消滅させる。

「しかし、何かこの戦い方は初めてのようには感じられないんだよな」

「俺は少なくとも誰かと共同戦線を張った事など無い」

「その割にはお前だって俺の戦い方を知ってるかのように援護してくれたじゃないか」

「何、だと……?」

 順平の指摘はアイギスも疑念を感じていた。何故この少年はこうもこのメンバーとの戦いに関して熟知しているのだろうかと。

 ただし、敵対ではなくむしろ協力――味方である事がさも自然であるかのようなものだった。

 恐らく何も知らない人が彼との戦いを見れば十中八九統率が取れている、よほど信頼し合っているのだろうと感嘆の意を唱えるくらいだ。

『危ないです! まだ敵はいますから注意してください!』

「分かりました。順平さんは前線に、私は後方からの援護射撃を行いますので貴方は――」

「砕く…止めても無駄だ!」

 風花のサーチを受けてアイギスが命令をする前に彼は順平と並んで前線に立ちはだかる。少年にとってこのシャドウの数――いや、存在など些細な事でしかない。むしろ興味があるのはこのコキュートスの深淵に潜む何か――。

 言ってしまえばそれだけの事。彼にとって明らかにされるメンバーの過去ですら気にする必要は無い。何せこの寮の中で初めて会ったような、ただ共闘をするだけの連中の過去など曝け出されようとどうでもいいとしか言えない事だった。

「……終わりましたね、一体この中はどこまで続いているんでしょうか?」

「分かりません、ただ、この地下には天田さんや真田さん達の様に覚醒に至った経緯が描かれる以上――」

 最低でもまだ何人かが過去を露見される。それは誰もが予感していた事だ。

 だが、一体何故皆に見せ付ける必要があるのか? その答えを知るには、結局ディヴァーナ・コメディア(神聖なる喜劇)の奥地へと進むしかない。

 それしか彼らに道は無いのだから――。





「三対三対三体三の四つ巴か……面白いじゃないか」

「おい明彦!」

「この現状に決着をつけると言うのなら、ここにいる12人全てが納得をする手段を取らなくてはならない。それは美鶴、お前も実感しているだろ?」

「だがしかし…こんなやり方では何の解決になる!? 私達は何のために…!」

 全ては儚き泡となって消え失せる。二の句も、その感情も、皆の絆も。

 否、彼らに絆などというものは存在していたのだろうか?

 能力があるから、ただそれだけでなし崩しにかき集められ、中にはアイギス達のように製造された存在までいる。

 ただ同じ寮に住んでいて、満月の時になったら共に戦うだけだったとも言えるだけの関係。

 突き詰めていけばそれだけの関係に過ぎなかった。シャドウという存在が、影時間と言う桐条グループの汚点が無ければ、その後始末に参加させられていなければ。

 いや、過去の仮定など所詮は無意味なもの。それは理解しているはずなのに。



 私達は何のために戦ってきたのだろうか?



 ――何かが崩れ落ちる。嫌だと泣き叫ぶ子どものように感情を曝け出したとしても、最早この場の全員が誰一人として美鶴の訴えを受け入れようとはしない。

 戦いに乗り気である者、譲れないものがあるが故に対立する者、この混沌とした状況を暴力ではなく武力を持って諌めようとする者、そして流されて気が付けば戦う事にした者。大まかに分けてこのカテゴリに分かれるが、誰一人として『この戦いを止めよう』と言い放つ人間はいなくなっている。

 いや、順平達が始めはその立場だったのだが、他のメンバーの諍いに半ギレ状態となって止めようとし、知らず知らずのうちに同じ土俵に立っていた。

 ではどうする? どうやって彼らを止める? 否、止めないにせよどうやって最小限の被害に抑える事が出来る?

 ――考えろ。天才と呼ばれ今まで戦いに関しての状況を把握、計算、戦術の構築、そして人間を統べる立場であった人間としてどうすべきか? 一番被害が少ない手段ではない、被害を出さない手段を考え抜く。

 だが、そんな理想論など存在しない。説得出来る術は断たれ、戦わなくては自分を除く十人と一匹が納得をする事など出来ない。ましてやその最もたる親友が横でこの戦いを提案してきているのだから性質が悪い。

 故に選択肢の無い美鶴が取る行動は一つしかなかった。悲しい話だが、それは彼女が考え抜いて出てきた答えとは遠く及ばない、むしろ何一つとしてかち合わない、所詮彼女自身が戦う事に対して自分だけ納得するような身勝手で愚直な行動に過ぎない。

 だが、彼女の名誉のために言うならば、例えそれが美鶴以外の誰かであったとしても同じ行動を取らざるを得ない。

 人生とは妥協の連続だ。だがその妥協は限りある選択肢の中から自分が良い――これで大丈夫だろうという落とし所を見つけるだけ。

 今回はそれを美鶴が取っただけの事だ。そして順平達もこのメンバーの中で続く諍いに対しての妥協点として、自分達が勝利する事で第三者的な答えを取るだけ。それだけの事。





「遅いぞ!」

「させん!」

 さすがボクシングの超高校級の選手と言えよう。少年の放った拳を寸前で避けきると一気に距離を詰め、彼の顎へと目掛けて軽いジャブを放つ。

 顎とは人体の急所である脳に直結している。ここを軽く揺らされるだけで人間はバランスを崩され脳震盪を起こす事も可能となり、脳が揺れる事の弊害として内出血や血栓なども引き起こされる。

 その原理を知っていたわけではない。だがそれを直感で感じ取った少年とて後れを取る訳には行かず、明彦の拳を真っ向から殴り払う。一般人には互いの拳が触れたかどうかも分からない瞬間の出来事だった。にも関わらず二人の拳骨には痛々しい傷跡だけが残っている。

「一つだけ聞こう、俺はボクシングをやっているから拳を使うが、何故お前は蹴りを使わない?」

「俺は半身でしかなかった、それだけの事だ」

「どういう意味だ?」

「その答えは俺を倒してから聞け」

 半身は半身でも上半身とでも言うのか。この少年の戦い方は異常なまでにその通り上半身に特化した闘い方をしている。

 そういう戦い方しか知らないから、まるでそう言うかの如く少年は拳、肘鉄に特化した戦い方や特技とも言える異端の技を使う。

 流派などそこには関係ない。ただ足を使わない技だから使っている。そうとまで捉えられても仕方の無い事だった。

 ならば下半身――蹴りに特化した戦い方をする人物がもう半身とでも言うのだろうか?

 ――否、そんな事を考えている余裕はお互いに無い。

「続けるか? それとも斃れるか?」

 挑発、そして自意識。交錯する視線はお互いを離さず囚われの身とする。一歩、また一歩と互いに戦いやすい距離を詰めようとする。

 その少年の視線の隅にはこの戦いで共闘をする事となった二人の少女と敵。近と遠の調和が取れた一つの絵が、戦場に流れる銃声と鈍器同士がぶつかる鈍い音が絵とは違った不協和音となって奏でられた。

「覚悟しろ!」

「出ろ…!」

 一瞬だけ地が揺れる。ほぼ同時に踏み込んだ二人は中央の距離で衝撃波が走る。その直前に放たれたペルソナよりも早く、速く疾く瞬く熱くそして誰よりも強く。

 打ち砕く、払う、振りかざす、そして受け流す。二人の上では皇帝と悪魔が戦慄く。ペルソナ使いであるが故に身体能力が常人のそれよりも向上しているとは言え、それを考慮しても決して引けを取らない漢達の拳がそこにはある。

 その瞬間、奇妙な現象が起きた。殴ったはずなのに音が発生しないと言うものだ。

 ――違う、その違和感を感じた漢達が一瞬だけ体を下がらせた瞬間、全てを理解した。

 鈍い音がコロシアムに響いたのだ。

 そう、漢達の拳の速度は一瞬だけ音速を超えたと言うのだ。その人間では到底不可能な所業をやった二人は一瞬だけ何が起きたのか理解出来ず、コンマ秒単位で呆然とし、正気に戻って召喚機を発動させている。

 ここで仮定をしよう。音速を超えるという動作がどれだけ人間業ではないのかを――。

 互いの拳が当たる地点が50cmとする。当然ながら拳は引いて押す動作、つまり往復しなくてはならない。

 では音速は何mなのか、その答えは誰もが知っている約334m/s。加速度や拳が当たった瞬間の減速は考えないとしても一回で1mとなり、それが334回行われる。一回辺りの所要時間は0.003秒。時速換算おおよそ1202km/h。

 その常軌を逸した殴り合いの最中、少年の拳が一瞬だけ開くのが見えた。年相応の、それでいて無骨で血濡れのそれがしなやかに伸びていた。言うなれば手刀を繰り広げる瞬間のように。

 手刀――不味い! そう思った瞬間明彦は背中に当たる感触で自分がどこにいるかを理解せざるを得なかった。

「フィンガークラッシャー!」

 手刀が頬を掠める。この攻撃は金属すら軽く貫く事が出来ると今までのディヴァーナ・コメディアの探索で見ていた。それが改めて自分を貫かんとする。

 明彦はその一瞬の隙を逃す事などしない。今ここでこの威力に恐れ戦く事も、そして相手に油断をする事も出来ないする必要も無い。

「ちぃっ!」

「貰ったぞ!」

 手首まで壁に刺さり、引き抜くには僅かだが数秒を要する。そして明彦はとっさに屈んでガードをした。何よりも少年は下半身を使った戦い方をせず、どんな状況下においても拳と肘鉄だけ、そして彼自身に随行武器は存在しない。

 故に――。

「その顎を…破壊する!」

 明彦のアッパーカットが少年の顎を的確に捉えようとしていた。





 長かったと自覚する。だけどそれだけの時間をもってもこの戦いは全て過去のものになるだろう。自分達が生きてきた時間の半分以上もかけて行われてきたこの茶番劇に終わりが見えてきたのだから。

「さあ来い十二の鍵よ、この偉大なる戦い(The Grate Battle)を終わらせようぞ!」

「十年だ…十年越しの決着と行くとしよう」

 前を見据える。そこには迷いなど存在しない。やっと彼はそこに辿り着いたのだから――。

 だからこそ、この因縁とも因果とも言える存在と合間見えた事を感慨深く思ってしまった。

 妙な話だと、思わず自嘲めいた笑いを口で表す。

 自分は本来はここにはいてはいけない存在であった事、そして何故自分の記憶の奥底にあるロボット達の戦いの記憶の正体。アインとは誰か? それを肉体に秘める自分は誰か?

 アンドロイドは電気羊の夢を見るか? そのような言葉がある。四十年近く前の1968年に出版されたSF小説で自分は本当に人間であるのか、それとも人間であると擬似的に記憶を植え付けられたアンドロイドであるか。

 その答えは自分には分からない。だけどここでこうやって生きている。例えそれが植えつけられた記憶であろうと、あるいは本当に生きている人間であるか。

 あくまでもその答えは分からない。だが、そう思い込む事は出来る。自分は人間である、一人の人間であると。怪我をすれば血を流すし悔しいと思えば当然不快な感情を露にする。時には利用し、利用されてここまで歩いてきた。

 その答えがこの『門』だった。この『門』の奥に潜むもの。



 それは――破滅。



 破滅の根源が目の前で今開かんとする。だからこそ目の前の存在を破砕せねばならない。

 もう、迷わない。もう、後悔しない。もう、踏み止まらない。

 だからこそ――。

「行くぞ、お前に『本当の』死を告げるために…!」

 掌を奴に突き出し、凛とした姿で立ちはだかる。

「かかって来い、貴様にそれが出来るのならな!」

 今――。

「…俺と!」

 少年少女たちの戦いと言う長き物語の最終話が開かれる。

「貴様の!!」

「グランドフィナーレでございます」

「Σ(゚Д゚;)」

 さっすがエリザベス、俺達に出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れる! 憧れるぅ!

「あらこんにちは皆さん」

 いやいやこんにちはじゃないっツーの。

「あら、どうしてですの?」

 いやそんな可愛く首を傾げられても正直困るんですが。

「可愛いだなんて……ありがとうございます」

 皮肉くらい分かれエレガ。せっかく最終戦だこれからクライマックスだぜ的な展開で堂々としゃしゃり出……いやごめんなさい。お願いですから全書を開くのは勘弁してください。

「うふふ……」

 いやそんな嬉しそうな顔をされても対応が難しいんですけど。

「あからさまに私の出番がありませんでしたから最終的にどうしましょうかと思い、せっかくなので一番自然かつ目立てる場所を掻っ攫いに来ました」

 来ましたじゃねーよ。上の文章全部見てみ? ヒロインである彼女の名前が一切合切出てないんだぜ。

「そういうものだからではないのでは?」

 さも自然の摂理のように語らないでよ。いやごめんなさい、ちょっと出しゃばりすぎました。後生ですからルイ・サイファー出さないでください。後サタンもセットで。

「一つだけ尋ねさせていただきます」

 ならばせめて脅しのように佇んでいる後ろのペルソナ達をどうにかしてください。お願いだからデュオニソスの股間を近づけないで。何か精神が不安定になるから、あの色といい格好といい。

「そんな事を申されましても……分かりました、ではこちらで」

 ご立派様ぁぁぁぁぁ!??!?!?

「なお、これは予告編でありますので本編とではどう変わるかは分かりませんのでご注意ください」









大昔に書いた予告編のみ

ぶっちゃけネタ。


もやし!!後はまかせry


つかペルソナ3理解できるやついない事に気がついた。


どうでもいい

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コメント 11

おれはペルソナ分かるお

救急車ーーー!!!!!!!! 誰かこの子を精神病院に!!
by おれはペルソナ分かるお (2010-02-07 20:13) 

武蔵 SF研

つ「書いたの誰」
つ「『続きを読む』を活用」
by 武蔵 SF研 (2010-02-07 20:14) 

鳴海優也

書いたのは俺だな

小学生の時の


ペルソナ分かるやつは誰だ


ちなみに続きはない

小学生の時の俺がなにを考えていたのか理解できない
by 鳴海優也 (2010-02-07 20:21) 

武蔵 SF研

そうじゃなくて、長文は『続きを読む』を使えってのw

by 武蔵 SF研 (2010-02-07 20:27) 

会長たま

もはやSFじゃないよね
ブログなくてよくね?
by 会長たま (2010-02-07 20:29) 

武蔵 SF研

自分がなんか書く。銀英SSかなんか考える。byちば
by 武蔵 SF研 (2010-02-07 20:33) 

もやし~続きを振られる者~

おや?なんか続き振られちゃった!

よし!

誰かペルソナ3を貸すといいことあるかもよ!
by もやし~続きを振られる者~ (2010-02-07 21:01) 

そうか…SFじゃないのか

>>会長

なら貴様が真のSFとやらをry

見せてもらおうか…真のSFssとやらをッ


>>もやし
がんばってね

小学生の時の俺は超超中二だから(はぁと

え…今も?

うん



続きを読むなんて高機能So-Netに存在したのか
by そうか…SFじゃないのか (2010-02-07 21:34) 

もうだめだ

とにかくクソ長えww
by もうだめだ (2010-02-08 03:07) 

もうだめだ

ばかだおwwwつかこの字数で梶取何枚書けるんだよwwwww
by もうだめだ (2010-02-08 03:14) 

素数

な・げ・え・よwww
by 素数 (2010-02-09 00:05) 

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2010-02-07朝と夜の物語  SS ブログトップ

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